日本の水辺や田んぼの近くで、赤いお腹をのぞかせながらゆったりと泳ぐ生き物を見かけたことはありませんか?
それがアカハライモリです。
日本固有種でありながら、その愛くるしい顔や独特の生態から、近年ペットとして飼育する人も急増しています。
この記事では、「アカハライモリって何?」という入門的な疑問から、分類・学名・英語名、呼吸の仕組み、生態の詳細まで、アカハライモリの「すべて」を一挙に解説します。
アカハライモリに興味を持ったばかりの方も、飼育を検討している方も、この記事を読めばアカハライモリの全体像が完全につかめるように構成しています。
アカハライモリとは?まず基本をおさえよう

アカハライモリの正体——何類の生き物なのか
アカハライモリは、両生類(りょうせいるい)に分類される生き物です。
「イモリ」と聞くと「ヤモリ」と混同されることがありますが、両者はまったく異なる生き物です。
ヤモリは爬虫類(は虫類)に属し、乾燥した環境を好んで陸上生活を送ります。
一方、アカハライモリは両生類であり、水中と陸上の両方の環境で生活できるという特性を持ちます。
「イモリは井戸を守る(水に関係する)」「ヤモリは家を守る(陸に関係する)」という語呂合わせを覚えると、区別しやすくなりますよ。
アカハライモリの分類——学名と英語名
アカハライモリの正式な生物学的分類は以下のとおりです。
| 分類階級 | 名称 |
|---|---|
| 界 | 動物界 |
| 門 | 脊索動物門 |
| 綱 | 両生綱 |
| 目 | 有尾目(サンショウウオ目) |
| 科 | イモリ科 |
| 属 | シナイモリ属(Cynops) |
| 種 | アカハライモリ |
学名は Cynops pyrrhogaster(キノプス・ピロガスター)です。
学名の pyrrhogaster はギリシャ語で「赤いお腹」を意味しており、まさにアカハライモリの最大の特徴を表しています。
英語名は “Japanese fire belly newt”(ジャパニーズ・ファイアー・ベリー・ニュート)と呼ばれます。
直訳すると「炎のような腹を持つ日本のイモリ」となり、鮮やかな赤色の腹部がその名の由来となっています。
アカハライモリの特徴——外見と体のつくり

全体的な見た目と大きさ
アカハライモリの体長は、成体でおよそ8〜13cm程度です。
オスよりもメスのほうが全体的に大きくなる傾向があり、特に繁殖期はメスが体をふっくらさせるため、見分けやすくなります。
体の背面(背中側)は黒〜暗褐色をしており、光の当たり具合によって濃淡が変わって見えることがあります。
皮膚の表面は湿り気を帯びており、陸上にいるときでも常に体を湿らせています。
これは乾燥に弱い両生類ならではの特徴です。
アカハライモリといえばこれ——赤いお腹の秘密
アカハライモリの最大の特徴は、名前のとおり鮮やかな赤〜オレンジ色のお腹です。
この腹部の模様は個体によって異なり、黒い斑点が散らばるものや、ほぼ無地に近い真っ赤なものまで、バリエーションが豊富です。
この赤色には、単なる見た目の美しさ以上の重要な意味があります。
それが警告色(アポセマティズム)です。
アカハライモリの皮膚には、フグの毒として有名なテトロドトキシン(TTX)が含まれています。
危険を感じたときに反り返り、赤いお腹を見せる行動(コリンガ反射)は、天敵に対して「自分は毒を持っているぞ」と警告するためのものです。
ただし、皮膚を触っただけで中毒になるほどの量ではなく、口から摂取しなければ通常は問題ありません。
なお、テトロドトキシンの毒性の強さは、天敵であるヘビが致命的な影響を受けた事例から証明されています。京都大学理学研究科の観察記録では、アカハライモリを捕食しようとしたシマヘビが、テトロドトキシンの作用によって死亡したとみられる事例が報告されており、この毒が天敵に対してどれほど有効な防衛手段であるかを如実に示しています。
アカハライモリを触った後は、必ず手をよく洗うようにしましょう。
アカハライモリの顔と目
アカハライモリの顔は、つぶらな丸い目と、やや平たい頭部が特徴的です。
目はほぼ真横についており、視野が広いのが特徴です。
虹彩(こうさい)は金色〜黄金色に輝いており、この美しい目もアカハライモリの魅力のひとつとして多くのファンを惹きつけています。
表情が豊かに見えることもあり、「こっちを見ている」という感覚がペットとしての愛着につながりやすい要因の一つとも言えます。
口元は薄く笑っているように見えることから、「いつも笑顔に見える」と言う飼育者も多く、その愛くるしい顔立ちはアカハライモリの大きな魅力です。
アカハライモリの生態——どんな暮らしをしているのか
生息地と分布
アカハライモリは日本固有種であり、北海道を除く本州・四国・九州およびその周辺の島々に生息しています。
水田(田んぼ)、小川、池、沼、湿地など、水辺の環境を好みます。
特に、水草が豊富で水の澄んだ緩やかな流れの場所を好む傾向があります。
近年は農薬の使用や圃場整備(ほじょうせいび)による生息環境の変化から、以前と比べると目にする機会が減ってきた地域もあります。
この状況を受け、環境省はアカハライモリを「環境省レッドリスト2020」において準絶滅危惧(NT)に指定しています。「現時点では絶滅危険性は低いが、生息環境の悪化が続けば将来的に絶滅危惧カテゴリーに移行しうる」という評価であり、日本の身近な自然を代表するこの生き物が、静かに危機に瀕している現実を私たちは認識しておく必要があります。
アカハライモリの呼吸のしくみ
両生類であるアカハライモリは、成長段階によって呼吸の方法が変わります。
幼生(子どもの頃)の呼吸
卵から孵化した直後の幼生(幼体)は、外鰓(がいさい)と呼ばれる羽状のエラを頭部の両側に持ち、水中でのエラ呼吸を行います。
この時期は完全な水中生活です。
変態後(成体)の呼吸
成長して変態が完了すると外鰓は消失し、肺呼吸が可能になります。
ただし、アカハライモリは変態後も水中での生活を好み、基本的に水中で過ごす時間が長い生き物です。
肺呼吸のため、水面に上がって空気を吸う行動(呼吸のための浮上)が見られます。
さらに、両生類特有の皮膚呼吸も行っており、皮膚が常に湿っている必要がある理由のひとつでもあります。
成体のアカハライモリは、肺呼吸・皮膚呼吸の両方を状況に応じて使い分けています。
食性——何を食べているのか
アカハライモリは肉食性の生き物です。
自然環境では、ミミズ、赤虫(ユスリカの幼虫)、小型の甲殻類、両生類の卵、小魚など、動くものをなんでも食べます。
視覚よりも嗅覚に頼って獲物を探す傾向があり、水中に漂う匂いに引き寄せられて餌を捕食します。
飼育下では冷凍赤虫や人工飼料にも慣れさせることができ、これが初心者でも飼いやすい理由のひとつです。
繁殖と産卵
アカハライモリの繁殖期は主に春から夏(3月〜7月頃)にかけてです。
オスは繁殖期になると尾の付け根付近が青紫色に光る(婚姻色)などの変化が見られ、独特の求愛行動を行います。
メスは水草の葉を1枚ずつ折り畳んで卵を産み付けるという、とても丁寧な産卵行動をとります。
一度の繁殖期に産む卵の数は数十〜100個程度で、水温や環境によって孵化までの期間は異なりますが、おおよそ2〜4週間程度で孵化します。
活動時期と冬眠
アカハライモリは変温動物(外温動物)であるため、気温・水温によって活動量が大きく変わります。
春から秋にかけて活発に活動し、冬は冬眠します。
自然環境では落ち葉の下や泥の中にもぐって冬眠することが多く、気温が下がってくる10〜11月頃から徐々に活動量が低下していきます。
飼育下では、冬眠させるかどうかを適切に判断・管理することが重要になります。
アカハライモリの寿命と再生能力
意外と長生き——アカハライモリの寿命
アカハライモリは適切な環境で飼育した場合、20〜30年以上生きることもある、非常に長命な生き物です。
野生下では天敵や環境ストレスにより寿命は短くなりがちですが、飼育下では長期間の生活を共にできるパートナーになり得ます。
これはペットとして迎える際に、長期的な責任とケアが必要であることを意味します。
驚異の再生能力
アカハライモリは生物学的にも非常に注目される存在です。
その理由が、驚異的な再生能力にあります。
手足・尾・目のレンズ・心臓の一部など、多くの組織・臓器を再生できる能力を持っており、世界中の研究者から注目されています。
この再生のメカニズムを解明することが、医学や再生医療の分野での応用につながると期待されており、アカハライモリは「研究対象としての生き物」としても非常に価値が高い存在です。
この分野では、筑波大学の千葉親文教授らの研究グループが世界的な先導役を担っています。同研究グループは、アカハライモリが成熟した体細胞を一度「脱分化(リプログラミング)」させることで再生を実現するという、脊椎動物中でも例外的なメカニズムを明らかにしました。さらに、傷跡を一切残さずに皮膚を再生する能力も実証されており、ヒトの「傷跡のない皮膚再生治療」への応用が期待されています(筑波大学・2021年発表)。
アカハライモリとペット——飼育の魅力と入門ポイント
なぜ人気なのか——アカハライモリの魅力
アカハライモリが近年ペットとして注目を集めている理由はいくつかあります。
日本の固有種であるため入手しやすいこと、比較的飼育スペースが小さくて済むこと、鳴き声がないこと、そして何よりその愛嬌のある顔と個性的な生態が、飼育者を強く惹きつけます。
一般的な観賞魚とは異なる「生き物と対話している」ような感覚が、熱狂的なファンを生み出しています。
飼育に必要な基本環境
アカハライモリは水陸両生の生き物であるため、飼育環境は水場と陸場の両方を用意することが基本です。
水深はあまり深くせず、アカハライモリが自力で呼吸のために水面へ上がれる環境を整えることが最優先です。
水温は15〜25℃が適切で、高水温(28℃以上)は致命的になりえるため、夏場の温度管理は特に重要です。
飼育の詳細については、当サイトの飼育専門記事でさらに詳しく解説しています。
まとめ
アカハライモリは、日本の固有種として古くから日本人に親しまれてきた、両生類の一種です。
学名は Cynops pyrrhogaster、英語では “Japanese fire belly newt” と呼ばれ、その名のとおり鮮やかな赤いお腹が最大の特徴です。
分類上は両生類の有尾目(サンショウウオ目)に属し、幼生期は外鰓によるエラ呼吸、成体後は肺呼吸と皮膚呼吸の両方を行います。
愛くるしい顔と目、赤いお腹の警告色、そして驚異的な再生能力など、アカハライモリは見た目の可愛らしさだけでなく、生物学的にも非常に興味深い生き物です。
寿命が20〜30年と長く、一度迎えたら長い時間を共に過ごせるパートナーになる一方で、それだけ責任ある飼育が求められます。
また、環境省レッドリストで準絶滅危惧(NT)に指定されていることからも、飼育個体の適切な管理と、野生個体を取り巻く自然環境への意識を持つことが大切です。
この記事を入口として、アカハライモリの飼育方法・餌・繁殖など、各テーマを深掘りした専門記事もぜひ参考にしてみてください。
アカハライモリの奥深い世界への第一歩を、この記事から踏み出していただければ幸いです。

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